今回は、渋谷区立松濤美術館へ行きます。

観るのは『没後50年 髙島野十郎展』

髙島野十郎(たかしま・やじゅうろう)。

暗闇に、蝋燭(ろうそく)の火がひとつ。

あの絵を描いた画家です。

「高島野十郎」と表記されることもあります。

白井晟一が設計した美術館を見て、すぐ近くの鍋島松濤公園も歩いてきました。

では、行ってみましょう。

『没後50年 髙島野十郎展』展示の様子

「没後50年 髙島野十郎展」看板

髙島野十郎は、1890年(明治23年)、福岡県久留米市の裕福な酒造家の五男に生まれました。

東京帝国大学農学部水産学科を、首席で卒業。

そのまま進めば、道はいくらでもあったはずです。

でも野十郎が選んだのは、画家の道でした。

しかも、画塾には通わず独学。

美術団体にも属しません。

生涯独身で、流行にも背を向けたまま、85年を生きました。

生前は、ほとんど無名です。

名前が知られはじめたのは、没後5年の1980年。福岡での展覧会に『すいれんの池』が出品されてからでした。

孤高の画家」と呼ばれています。

本展は没後50年の節目に開かれた、髙島野十郎展としては過去最大規模の回顧展

初公開作品や、青木繁、坂本繁二郎、岸田劉生といった関連作家の作品、書簡やメモまで含めて、総数で約170点です。

(前期と後期で一部の展示替えがありました)

ちなみに青木繁は、野十郎の長兄・宇朗(詩人)の友人。

野十郎が絵に目覚めるきっかけをつくった一人です。

訪れたのは、会期終了まぎわのころ。

平日でしたが、館内は混んでいました。

展示会場の一室のみ、写真撮影がOK。

展示風景

壁の色と、作品の色が、よく合っています。

『壺とグラスと果実』。

近くで見ると、下に敷かれた布の模様まで描き込まれています。

果物の絵が、たくさんありました。

りんご、桃、すもも、さくらんぼ。

どれもそれほど大きな画面ではありません。

派手なところもないのですが、なんというか、じっと見てしまう。

目の前のものを、静かに、ひたすら見続けた人なんだなと思います。

そして、木立の向こうに、太陽。

野十郎は「太陽」や「月」も、繰り返し描きました。

代表作『蝋燭』の展示

これは野十郎が親しい人に贈ったという蝋燭(ろうそく)の絵です。

そうなんです。

『蝋燭』は、売り物ではありませんでした。

親しい友人や、世話になった人へ贈っていたのだそうです。

ですから、まとまって観られる機会は、そう多くありません。

それが、9枚。

斜めから見ると、額が一枚ずつ違うのがよく分かります。

どれも小さな画面です。

暗闇に、火がひとつ。

何を照らしているのかは、絵の中で語られません。

大きな絵にはない静けさが、ここにあります。

火のまわりには、ごく小さな結晶のようなものが散っているといいます。

野十郎が意図して描いたのか、経年の変化なのか、諸説あるそうです。

白井晟一設計の松濤美術館

渋谷区立松濤美術館

この建物、設計は白井晟一(しらい・せいいち)。

1905年、京都生まれ。

京都高等工芸学校を出たあとドイツへ渡り、ハイデルベルク大学とベルリン大学で哲学を学んでいます。

帰国してから、建築家の道に入りました。

……野十郎と、ちょっと重なりますね。

松濤美術館の開館は1981年。

地上2階、地下2階。

外壁は、韓国産の花崗岩「紅雲石」を割肌のまま積んだものです。

中央はぐるりと吹き抜けになっていて、その吹き抜けに橋が架かっています。

らせん階段を上から見下ろすと、こう。

吹き抜けを見上げると橋。見下ろすと、地下の噴水。

玄関の天井は、オニキスの光り天井です。

やわらかい、金色の光。

そして、見上げるとこれ。

丸く切り取られた空

空が、丸く切り取られています。

建物だけでも、じゅうぶん見応えがあります。

美術館近くの鍋島松濤公園

渋谷区立松濤美術館から歩いてすぐのところに、鍋島松濤公園があります。

案内板を読んでみましょう。

鍋島松濤公園 案内板

もとは、紀州徳川家の下屋敷。

明治9年に佐賀の鍋島家が払い下げを受け、茶園を開きました。

その茶の銘が「松濤」。

松濤とは、茶の湯のたぎる音から出た名だそうです。

松濤という地名は、ここから来ているんですね。

茶園がなくなったあとも、湧き水の池は残りました。

渋谷駅からこの距離で、この静けさ。

公園のトイレは、隈研吾の設計です。

「森のコミチ」という名前がついています。

杉板のルーバーに覆われた小屋が5つ、小径でつながっている。

THE TOKYO TOILET というプロジェクトの一つです。

まとめ

今回は、渋谷区立松濤美術館の『没後50年 髙島野十郎展』へ行きました。

白井晟一の建築を見て、鍋島松濤公園まで足をのばして。

渋谷の駅前から十数分でこの静けさですから、なかなか贅沢な半日です。

『没後50年 髙島野十郎展』の巡回

全国6会場を巡回した展覧会です。

千葉県立美術館 2025年7月18日〜9月28日
福岡県立美術館 2025年10月11日〜12月14日
豊田市美術館 2026年1月6日〜3月15日
大阪中之島美術館 2026年3月25日〜6月21日
渋谷区立松濤美術館 2026年7月4日〜9月6日
宇都宮美術館 2026年9月20日〜12月6日

私が訪れたのは、東京会場の渋谷区立松濤美術館でした。

巡回の最後は、栃木の宇都宮美術館です。

『蝋燭』は、贈りものでした

野十郎の『蝋燭』は、売るために描かれた絵ではありませんでした。

親しい人へ、手渡された絵です。

どれも、小さな画面でした。

その『蝋燭』を、専門の画工が一枚ずつ絵具で手彩色した複製画(巧藝画)があります。

暗闇に、火がひとつ。

ちょっと、見てみませんか?

『蝋燭』高島野十郎